ベネディクト著「菊と刀」は原爆投下を正当化するためと断じた長野晃子著「恥の文化という神話」

画像
アメリカの著名な文化人類学者ルース・ベネデイクトが終戦直後の1946年に刊行した「菊と刀、日本文化の型」(The Chrysanthemum and the Sword, Patterns of Japanese Culture)という日本に関する名著の題名は知っていましたが 読んでなかったので その内容を今まで全く知りませんでした。 長野晃子著「恥の文化という神話」(草思社)を読み ベネディクトが「菊と刀」の中で日本を「恥の文化」と書いた意図は 当時のアメリカ人が潜在的に感じていた原爆投下や戦後の占領政策に対する後ろめたさを癒すためと知り 驚きました。

「菊と刀」の中で キリスト教文明圏に生きる欧米人の行動規律となっている『罪の文化』は 神と一対一で向かい合って自律的(自発的)に善悪を判断するが 日本人の『罪の文化』は 社会(世間)の人々の視線を感じ取り『外面的な世間体(恥を恐れるプライド)』によって他律的(強制的)に善悪を判断すると ベネディクトは規定しています。

ベネディクトは 日本の「恥の文化」について 更に 次の如く述べています。

日本人は自分の行動を(神でなく)他人がどう思うであろうか ということを恐ろしく気にかける同時に 自分の恥ずべき行為が他人に分からない(バレない)時に罪を犯す誘惑に負ける。 日本人は 道徳について絶対的な基準を持たず 罪の意識を持たず 世人に露見しないなら悪い行いを平気で行う道徳感のない民族である。

要するに ベネディクトの言う「恥の文化」とは 「恥を知る誇るべき文化」ではなく 「恥ずべき文化」ということになります。 長野晃子さんは著書「恥の文化という神話」の中で このようなベネディクトの日本像は「確かな根拠に基づく科学的な見方でなく 科学的な装いをこらした念入りな創作であり 日本人を道徳感のない民族と裁くことでアメリカの原爆投下を正当化するプロパガンダだった」と批判しています。

なかなか面白い見方と思いました。 ベネディクトの「菊と刀」は アメリカ国務省戦時情報局海外情報部への報告書として書かれたものであり 日本に原爆が投下された直後の1945年9月に執筆を始め翌年11月に刊行されたことを考えると 「原爆投下を正当化するプロパガンダだった」とする長野晃子さんの見方は正しいのではないでしょうか?

ベネディクトはコロンビア大学での教え子たちに「『菊と刀』を読まないように」と言ったとも伝えられており それはベネディクト自身が「菊と刀」を 政治プロパガンバとして書いたので学問的なものではないと自覚していたからだという見方もあります。

「菊と刀」は  長野晃子さんの言うように「確かな根拠に基づく科学的な見方でなく創作だった」かも知れませんが 「日本人は 自分の恥ずべき行為がバレなければ 罪を犯す誘惑に負ける」というベネディクトの日本人論は 多くの日本人に今も当てはまるので 評価できる面も多々あると私は思いました。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 7

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い

この記事へのコメント

hm
2010年03月13日 15:04
私が同書を読んだのは10年以上前。日本に滞在したことのない人物が、よくもこれだけ日本人の性質を(総体的には)的確に指摘しているものだと感心したというのが読後感であったように思います。特に日本人を侮蔑の対象としている、との印象はありませんでした。それが、「原爆投下を正当化するプロパガンダだった」というのは一聞しただけでは、私にはこじつけにしか聞こえませんが、白象さんが納得されるのであれば、それなりの根拠があるのでしょう。そこのところを知りたいものです。
白象
2010年03月13日 15:20
hmさま
厳しいご指摘ですね。 確かに著者・長野晃子の指摘はこじつけかも知れませんが 「菊と刀」は原爆投下を正当化するための本という見方も一面で出来る(本当がどうかは別にして)のではないでしょうか? 記事中にも書きましたが ベネディクトの日本人論には正しい面も多くあると思います。
洒落(hm改め)
2010年07月05日 15:20
本書を読みました。引用されて出てくるのが、かの小林よしのり、イラク戦争を強硬に支持した中西輝政、皇族に基本的人権はないと公言する西尾幹二とくれば、著者の思想的背景も想像がつきます。彼らに共通するのは、歴史を相対化して見る能力がないということでしょう。すなわち、自国のことは棚に上げて、他を非難する性癖をもっているのです。著者は、アジア諸国や国内に甚大な被害をもたらした事実には触れず、「日本の戦いは、アジア、アフリカなどに『やればできる』精神の種をまき(中略)革命ともいえる現象を起こすきっかけをつくってくれてよかったと思っている」と驚くべき論理で先の大戦を正当化しています。また、「ベネデイクトは日本の敗戦は天譴と語っているから」、日本国民は「原爆という天譴に値する国民とする『菊と刀』を書いたと思っている」、と主張していますが、そこに論理的な脈絡があるとは思えません。真珠湾攻撃も原爆投下の正当化というに至っては、もうなんと申しましょうか。原爆は、そもそもドイツが先に開発を始め、アメリカがあわてて開発に着手、大戦末期に成功したものであって、日本も開発を試みたものの資金力がななかっただけの話。持っていれば、間違いなく使っています。原爆投下を米内光正は「天佑であった」と言っています(阿川弘之著)。当時の日本は、開戦翌年のミッドウエー海戦以降、連戦連敗であったにもかかわらず、原爆投下をされなければ戦いを止めないほどに狂気の中にあったのです。ドイツはその前に降伏。(決してアメリカが正当化することに与するという意味ではありません。念のため)なお、“自爆戦争”という語は中曽根内閣時代に防衛大学校長を務めた、猪木正道氏の著書からの借用です。もし、未読であればご一読をお勧めします。もちろん世に関連書はたくさんありますが、コンパクトな読みやすい本です。「軍国日本の興亡」中公新書

洒落
2010年07月05日 15:42
追補:“自爆戦争”という語が文中にあったのですが、800字を超えたたため削除しました。よって終段のコメントは“意味不明”のものとなりました。悪しからず。
白象
2010年07月05日 15:58
酒楽さま
ご指摘の如く長野晃子さんの論には偏った面が多分にあり キリスト教文明圏に生きる欧米人の行動規律となっている『罪の文化』には日本人と大きく異なるというベネディクトの論に正しい面がかなりあると思います。
牡蠣
2010年10月10日 13:05
 私は白象さんと違う考えを持っています。『「恥の文化」という神話』は『菊と刀』を理解せずに書かれた本であり、したがって『菊と刀』がアメリカによる原爆投下を正当化するために書かれたというのは幻想です。
 その本の欠点は沢山ありますが一つだけ言っておきましょう。著者はベネディクトが日本人のことを良心をもたない人間だと言ったとし、それを原爆投下の正しさの根拠にしたと主張してますが、ベネディクトはそんなことを言っていません。彼女が言ったのは、アメリカ人が言う‘conscience’を日本人が持たないということです。重要な段落(たとえば長谷川の訳本のp.290)で‘conscience’という語を使うときには意味を限定するために「西洋流の言い方をすれば」とか「アメリカ人が」といった言葉を添えました。これは日本語の「良心」と違うものを意味しているという表示です。こういう言葉(conscience)は辞書に書いてあることを鵜呑みにして解釈してはいけないのです。これは、第10章で「まこと」と‘sincerity’の違いが入念に説明されているので容易に理解できます。そればかりか第5章では「ありがとう」と‘thank you’が同じでないことも説明されています。なのに著者はそれを理解しませんでした。
 本の論旨に重大なかかわりのある事柄がこんな始末です。しかも致命的欠点はこれだけではなく、いっぱいあります。私には『「恥の文化」という神話』が正しい見方をしたものだとは考えられません。
白象
2010年10月10日 15:03
牡蠣さま
コメントを有難うございます。 ご指摘の点 いろいろと考えさせられました。
ベネディックトは三白眼のオバサン
2014年07月15日 17:37
日本は恥の文化だから他人の目が無いところではやりたい放題、悪い事も平気であるのが日本人?どこの国であろうが居ますよ、そんな人。それを何故日本人だけの特質とするのか、要するに日本貶めのプロパガンダである。こんな分り切った事を書くベネディクトはあまり知性が無いようだ。視野の狭い日本人にありがちな傾向として、大きく高いところから物事を見る事が出来ない。人生経験の浅い若者に多いが、読書する習慣を持てば他人の嘘が分ってくるのであるが。頭からベネディクトを信じ込んで日本人はやっぱりと言っている人を見ると情けなくて堪らない。
白象
2014年07月16日 22:38
ベネディックトは三白眼のオバサンさま
コメントを有難うございます。

この記事へのトラックバック