日本最大のロックフィルダム・高瀬ダムの建設を現場取材した曽野綾子著「湖水誕生」を読み土木の世界を知る

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昭和60年(1985)に刊行された曽野綾子著「湖水誕生」を読みました。 長野県大町市を流れる高瀬川には 上流から 高瀬ダム 七倉ダム 大町ダムという三つのダムが建設されましたが 著者・曽野綾子さんは 高瀬ダムと七倉ダムの建設工事が始まってから3年後に現地での取材を始め 白内障の手術による休筆期間(約2年間)があったので 現地を取材した期間は7年でしたが 13年かけて「湖水誕生」を完成させています。

ダムの形式として 最も多いのが ロックフィルダムと重量式コンクリートダムです。 高瀬ダムと七倉ダムは 岩石や土砂を積み上げて建設するロックフィルダムで 深夜の余剰電力を利用して下池・七倉ダム湖より上池・高瀬ダム湖へと水をくみ上げ 大量の電力が必要な昼間に備える「揚水式発電」を採用しています。

高瀬ダムは 堤高が日本で最も高いロックフィルダムで 三つのダムを比較すると以下の如くなります。

                   (高瀬ダム)   (七倉ダム)   (大町ダム)
   工事開始           1969年      1970年      1972年
   工事完成           1979年      1979年      1985年
   堤高               176m       125m       107m
   堤頂長              362m       340m       338m
   総貯水容量(立法m)    7620万      3250万      3390万
   工法             ロックフィル   ロックフィル  重量式コンクリート


ほぼ30年も前に刊行された曽野綾子著「湖水誕生」を なぜ今さら読む気になったのか 不思議に思われるかもしれませんが 別記事 北アルプス・槍ヶ岳を源とする高瀬川に作られ七倉ダムと大町ダムを訪ね「揚水式水力発電」のシステムを知る に書いた如く 最近になって 写真上のロックフィルダム・七倉ダムを訪ねる機会があり 七倉ダム湖畔の七倉山荘売店で この本を見つけたからです。

曽野綾子さんが1969年に発表した著作に 田子倉ダム 東名高速道路 タイのランパン~チェンマイ道路の建設工事を舞台にした「無名碑」という名作があり 大昔に読んで感動しましたが 「湖水誕生」という著作の存在を知らなかったので 現地取材した著者が高瀬ダムと七倉ダムを舞台にどのような小説を書いたのか興味を持ち 読んでみました。

「湖水誕生」は 山奥にある高瀬ダムと七倉ダムの建設に従事する技術者と家族たちそれぞれの生き方を描く中で ロックフィルダムの施工プロセスという土木の世界を事細かに描いており この本は 昭和61年(1986年)の土木学会著作賞を受賞しています。

高瀬ダムと七倉ダムの建設を進めている最中の1976年に ロックフィル工法で建設されたティートンダム(アメリカ・アイダホ州)が初めての湛水時に決壊し大きな被害を出しており そのことが「湖水誕生」の中で書かれています。 ロックフィルダムの弱点は 重量式コンクリートダムに比べ 洪水による堤体越水に弱いことであり その対策として ロックフィルダムには 堤体中央部でなく 左岸か右岸に洪水が堤体を超える場合に水を放流する「洪水吐き」を一般的に設けているそうです。

日本の総発電電力量の内 1960年までは 水力発電が全体の半分以上を占めましたが 水力発電の比率は その後 段々と減り 「エネルギー白書2010」によると 2010年の割合は 水力発電8.1%  火力発電61.7%  原子力発電29.2%となっています。

一昨年に起きた福島原子力発電所の事故で 今後 日本のエネルギーを原子力発電に頼ることは難しくなりましたが 水力発電量を増やすことも難しいようであり 水力発電がまだ主役だった頃に山奥の現場で取材し書かれた「湖水誕生」を読み 複雑な気がしました。
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ロックフィルダム・七倉ダムの堤を下から登る階段。 右側が「洪水吐」

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七倉湖畔にある「七倉山荘」。 ここの売店で曽野綾子著「湖水誕生」を知る

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重量式コンクリートダム・大町ダム

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曽野綾子著「湖水誕生」

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